■第四夜(その1)■ 解放の処方箋

2009/06


さて、■第三夜■では直進状態のバイク上でライダーが左右どちらかの足に【入力・加重】する、または【荷重移動】をすればバイクはそちら側に傾くと書きました。

ここでもう一度話を■第二夜■まで戻し、両足で立った人の進行方向を右とし、つま先側をバイクの左側と仮定してみましょう。
そこから左コーナーにターン・インするには左側に荷重をかけなければなりません。
力のモーメント:4
人間が立って静止した状態で上体を前に傾け、つま先にかかる荷重を増やし続ければ、ある一定の角度=つま先の垂線から前に重心位置がいった場合はカカトを上げてヒザを曲げ、重心位置のバランスを取らない限り【重力】によりパタリと前に倒れてしまうでしょう。

しかし、バイクの場合リーンした後にはコーナリング=旋回が待っています。

そこで【慣性】の出番です。

実際に走行中のバイクには『慣性の法則(運動の第1法則)』=「静止している質点は、力を加えられない限り、静止を続ける。運動している質点は、力を加えられない限り、等速直線運動を続ける」により、【慣性力】が働いています。乱暴に言えば、真っ直ぐ進もうとする力、ホイールが回転する力などで(実際はあらゆる動きのある部分、全体に慣性力が働いています)、速度や加速度が上がれば【慣性力=慣性抵抗】も強くなります。
地球上で(宇宙でも)質量のある物体が高速で移動すれば、強い【慣性力】が働きます。人工衛星が引力に引っ張られて地球に落ち続けながらも一定の高度を保つのは、秒速・約8キロ(約29,000km/h)以上の速度で動いているからです。

そう、私達は常に『地球の重力(万有引力)』の影響下にあり、バイクが走っている間は様々な慣性力、摩擦抵抗や抗力が働いて運動エネルギーが放出され、加速時も減速時も慣性力は増減しますが、全てを網羅するのは私には到底不可能なので、ここでは【遠心力】に限り、それは「一定である」と仮定し、ステアリング周りは(■第五夜■で解説するので、ここでは)解かりやすくするため「無いもの」とします。

ざっくばらんに言ってしまえば、バイクで旋回している最中は、バイクには『旋回円の中心から外に向かう慣性力』=【遠心力】と、車体を傾けることで『旋回円の中心へ向かうチカラ』=【向心力】が働くわけです。【向心力】は【求心力】と同義です。

直線からコーナーへターン・インし、旋回状態へ移行したらライダーはその旋回速度に相応しいリーンアングルからバイクがそれ以上傾かないよう、起き上がらないように『重力、旋回速度と遠心力、向心力(求心力)が動的にバランスした状態』を作らねばならないわけです。
この『動的にバランスした状態』で一定の円上を旋回し続ける(これを【定常円旋回】といいます)には、『速度とリーンアングルとハンドル切れ角、アクセル開度が一定』である必要があります。

詰まるところ、バイクのコーナリングとは【遠心力】と【向心力】のバランスで、【向心力(求心力)】が勝てばバイクは旋回半径を小さくしてやがて内側に倒れ、【遠心力】が勝てば旋回半径は大きくなっていきます・・・・・。
何気に重要な道理をサラッと晒しちゃいましたが(笑)、それは後で書くとして、ここでは一つ一つのチカラを分解し、簡略化して見せるために、『レコード盤の上に一本足で固定された椅子』というモノを捻り出してみました。
遠心力/求心力
この椅子は、『中心〜遠心方向にはスイングするが前後には動かない』という、バイクが『遠心力に応じてリーンアングルを変えるだけの状態』を模しています。
その盤上の中心付近に座ったフィギュアを「(a)君」、外縁付近に座ったフィギュアを「(b)君」とでも呼びましょう。
ここでは足を地面に置いてあるだけで、【荷重】のホトンドはお尻に分布しています。また、実際はホイールの回転など車体を安定させる【ジャイロ効果】などの慣性も発生しますが、それは「あるもの」として見てください。

レコード盤が回転をはじめると、椅子に座った(a)君に【遠心力】がかかりはじめます。
レコード:1
(a)君は椅子ごと身体を中心方向に傾けてバランスを取ろうとしますが、どうも【遠心力】に負け気味でバランスが良くありません。
実際の峠道でも、「倒しこんだは良いけど、思ったより曲がって行かないなぁ・・・・」と思うことがありますよね。(a)君も身体をもっと内=イン側に傾けて大きな【向心力】を得ようと、外足をシートに押し付けて【加重・入力】し、“Mito-GP”ライダーばりに肩をイン側に入れようとします。

これが峠などでよく見かける、「見せかけリーンイン」の状態です。

バイクは速度と遠心力その他諸々に応じてリーンアングルを決めて旋回バランスしているのに、外足全体でバイクを上から下へ押せば、その反作用で腰は浮き、シート上面から荷重が抜けてそれまでの旋回バランスは崩れます。
上体はインへ入っているのに、シート上面イン側に【荷重】がかかっていないのでバイクはインに向かわず、これで上体をタンクに軽く伏せて腕から力を抜けばまだマシなのですが、バイクが期待通りに曲がってくれないものだから腕に力は入るし、乗り手はさらに上半身だけでもインに向かおうと外足を外に踏ん張り【加重・入力】しようとするし、ますますハンドルは切れずバイクも起きる・・・・・悪循環ですね。
車体がリーンしていればバイクはとりあえず旋回していきますが、「思った通りに曲がらない」のでは怖いですよね。

ではこの時、外足側に【荷重移動】したらどうなるでしょうか?
レコード:5
外足に【荷重】をかけるには【重心位置】をさらに外側に移動しなければなりません。【遠心力】が変わらなければ椅子は足を支点として外側に起きようとするので、外足で地面を踏ん張らなければ振り落とされてしまうかもしれません・・・・・。

「ホラ!やっぱり外足荷重が基本なんだ!」
・・・・・と、決めるのは早計です。
実際我々がバイクに乗る時、足はステップに乗せていて地面に付いていないので、仮にこの椅子にステップを付け、外足で踏ん張ったとしても(前述の通り)バイクは外に起きようとするので、上体をイン側に入りバランスさせなければなりません・・・・・結局は「見せかけのリーンイン」と同じになります。

レコード:3
あるいは、コーナリング中外足のヒザ辺りで車体側に向けて【加重(入力)】すれば、その作用で「一瞬」バイクは内側に倒れようとしますが、上体はその反力で起き、結果的には外足に【荷重】をかけた場合と同じになり、■第三夜■での直進状態で【加重】したのと結果は同じです。

ステップにかかる荷重はリーン開始時に内足に多くかけることもあれば、シート上面にかかる荷重は加速減速で前後に、切り返し時などは左右(内外)に移動する場合もあります。外乱を受けた時は外足を踏ん張ったり、スリップした時に内足に入力し(トルクをかけ)て車体を瞬間的に起こすこともありますが、上記の場合では【遠心力】と【向心力】以外の要因を無視しているので、シート上面にかかるお尻の荷重をほんの少しイン側に移動してやれば、楽にレコード盤の上でリーンアングルを維持できる=遠心力とバランスした状態にできます。

バイク単体に限って考えれば速度が上がればそれだけ(机上の理屈では)車体やホイールから生じる【慣性】は強くなり、バイクの安定性は高くなります。例えば180km/hでコーナリングしているバイクは、他に何も無ければフルロックターンなんかより遥かに安定して旋回状態を維持し、容易にはバランスを崩しません(まぁ実際は他の交通もあり、道路の幅やらタイヤやら車体やらにも自ずと限界はありますが・・・・)。
とにもかくにも、古典力学から見れば

コーナリング中に外足に荷重をかけると、
バイクには起きようとするチカラがかかる

と言えます。
ではコーナリング中に(本来の意味での)【外足荷重】をすることは、どんな場面でも御法度なんでしょうか?

次回はそこを考えます。

■第四夜(その1)■ 解放の処方箋

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