■異聞■ 天上の人々

2009/07


私達が「コーナリング」と言う場合、それはカーブの「どの位置」でのことを言うのでしょう?
前後の文章や、話の流れによって変わってくると思うのですが、バイクはコーナリングの開始から終わりまで『常に同じ状態』にあるわけではありません。ターンインから立ち上がりまで、アクセルの開け閉めやブレーキングその他諸々の操作に関連して、足を踏ん張ったりモモを閉めたり身体を捻ったり、タンクに伏せたり・・・・様々な入力、荷重移動をしています。
それを前提に置いて、以下は我々一般的なライダーが日常経験しないであろう「特殊な状況」の話なんで、茶請け話程度の軽〜い気持ちで、読みたい人は読んでみてください。

画像は2006年の“Moto‐GP World Champion”「ケンタッキー・キッド」こと、ニッキー・ヘイデンのコーナリングです。
ニッキー・ヘイデン・1
見て分かる通り外足のカカト〜モモでマシンを【ホールド】していますが、この瞬間に限れば、外側ステップに自分の体重=【荷重】はホトンドかかっていません
車体をホールド(Hold)するため外足の足首を少し捻ってますけど、この画像だけを見れば、【荷重】のホトンドは「外足のモモ」と密着した「シート上面イン側」にかかっています。内足=イン側のステップにも【荷重】はかかっていますが、下=地面方向では無く、上半身をイン側に入れた状態で固定し、外足と合わせて車体をホールドするために使われており、大きな遠心力に抗してコーナーイン側に向かうために、【旋回】=『向心力が勝った状態』を作り出そうとしているのが良く分かると思います。

そして、このように大きく腰を落とした状態では外足モモしかシート上面に乗っておらず、自分の体重=【荷重】の大部分を乗せる場所はそこ以外にないです。
これを以って「ホラ!Moto-GPチャンピオンだってコーナリング中は外足荷重が基本なんだよ!」と言うのはズルイ話で、「じゃあリーンウィズで乗っている時は外足荷重できないよね?!それって・・・・『基本』なの?」と言いたくなるのも無理ないですよね。

さらにコレは静止画像ですが、実際は車体にも身体にも(赤・燈矢印のような)大きな遠心力がかかっているわけで、重力と遠心力の合力はタイヤ接地面方向へ向かい、そうしてここまでバイクを傾けても倒れずにバランスしているのです。

では、もしこの状態から後輪がスライドしたらどうしましょう・・・・・。
リンク先の映像は、ヘンデン選手がフルバンク状態で後輪が遠心力とパワーに堪えきれずスライドしたスロー映像です(音量注意)。
http://www.youtube.com/watch?v=dcpXibqE89s  
スライドした瞬間反射的に小さく逆ハンを切りますが、一瞬後には内足ステップを「グっ」と踏み込み、上体をさらにイン側に入れて外足を踏ん張りって車体を立てた後は、両足でマシンをホールドしてコーナーを立ち上がって行きます。
現代のMoto-GPマシンなのでこういったスライドはある程度電子制御されているとは思いますが、それにしても急なテールスライドから立ち直るためのお手本のようなライディングです。

一方後半は「不意のスライド」では無く、次の右コーナーへ向けてラインを変えるための完全にコントロールされたそれなので、危うい挙動はほとんどしていません。上のグリップしている状態の静止画像と比べると、スライドした直後に外足ステップを踏んづけて車体を立て、上半身をイン側に入れてシート上面イン側に【荷重】し、【遠心力】と後輪の【駆動力】で起きようとするバイクと、スライドして外へ逃げようとするそれらをバランスさせているのが良く分かります
ニッキー・ヘイデン・2

速度が速くなれば慣性による安定成分も増えてバイクは転倒し難くなるもので、仮にこのままスライドをし続ければその摩擦熱がエネルギーとして放出され、後輪の空転速度に車速が追いつき、やがてスライドは停まる(あるいは、エンジンのパワーピーク域を超えてパワーが落ちるか、バイワイヤー制御によってスロットルバルブが戻されてもグリップを回復する)でしょう。
ここでドリフトアングルを付け過ぎればスリップダウンするか、逆に切った前輪の切れ角を超え、リアサスが伸び切った瞬間にグリップを回復してサスが一気に縮み、遠心力とのバランス関係を失った車体が跳ね起きてライダーを空へ射出・・・・いわゆる「ハイサイド」と言うヤツをくらってしまうでしょう。

続いての画像は“AMA Grand National Dirt Track Race”の偉大なチャンピオン、「スプリンガー」ことジェイ・スプリングスティーンのコーナリングです。
ジェイ・スプリングスティーン
アクセルと遠心力でリアタイヤをアウトに振ってサイドウェイ=ドリフトをしている状態で、ダートトラックではこれが『コーナリングの基本状態』です。

見ての通り、我々が一般道で行うコーナリングでは前輪の旋回円が後輪の旋回円の外側を通りますが、サイドウェイ状態では前輪は後輪の旋回円の内側を通ります。
後輪はスライドさせつつアクセルを開けて車体を前に進め、バイクが遠心力で外に引っ張られている状態でスリップダウンを回避するため【外足荷重】でバイクを起こし、前輪がスライドしての転倒を避けてカウンターステアを切ってバランスしています。

下の映像はモーターサイクル・ドキュメント映画の傑作“On Any Sunday”の1シーンです。
http://www.youtube.com/watch?v=0vkopfn1gLU
 
バイクは常に路面の影響を受けているので動きは一定でなく、ドリフトアングルを調節するため(スライドが大き過ぎてスリップダウンしそうな時は)上半身をイン側に入れたり、外足でステップを踏み込んで瞬間的にバイクを起こしたり、ギャップで跳ね起きようとするバイクを外足ヒザで押さえ込んだりしています・・・・・。要は、【外足ホールド】ですね。
「外足でホールドしてるって?!ほら、トップライダーだって外足荷重してるじゃないか!やっぱり基本は外足荷重だ!」

いやいや・・・・ちょっと待って下さい(笑) 【外足ホールド】はあくまで外足ホールドに過ぎず、これを【外足荷重】と言い替えたりすると、『言葉通りの外足荷重』の説明のほうがややこしくなってしまうので、混同しないように・・・・・。
彼等は確かに外足で車体をガッチリ【ホールド】していますし、本来の意味での【荷重】のホトンドはシート上面外側の角=お尻に集中しています。ですが、■第四夜■でくり返し書いたように『車体外側に荷重をかければバイクは起きる』ので、バイクをイン側に向ける旋回力は『恒常的なスリップダウン寸前の状態=後輪をスライド状態にすること』で得ています。だから【外足荷重】してそれとバランスさせているのです。

オフロードバイクでのダート走行も似た所はありますが、モトクロス等とダートトラックが違うのは、モトクロスは至る所でチョイチョイ後輪を滑らせて向きを変えているけれど、ダートラほど長い間サイドウェイ状態を維持しないという所です。
コーナーのサーフェス、Rの大きさ、バンクの有無などにもよりますが、モトクロスでは(一部の高速コーナーを除けば)進入から脱出までずっとスライドさせっ放しということは滅多にありません。
オフでも【速さ】を求めるとタイヤは出来る限りグリップさせたいのです。
アクセルを開けて後輪が空転した場合でも、「横方向」ではなく「進行方向」であって欲しいので、進入で後輪が横に流れてもクリッピング以降ではダートトラックのような逆ハン&サイドウェイ状態は極力避け、バイクを立てて「前」に進めようとします。

もう一つ、ダートラよりグリップの良いオーバルトラックを、それ用に特化したバイクで疾走する、日本のオートレースの猛者たちも見てみましょう。
http://www.youtube.com/watch?v=bzPdzW9GSWA

ダートラほど派手にスライドさせていないので少し分かり難いですが、ハンドルがほぼ直進状態か、僅かに外に切れていることから、後輪がスライド状態であることが見て取れます(これはウェットですが、ドライでも大差ありません・・・・・つーかコレ、すんげぇ面白いレースなんですけどw)
オートレーサー
レーサー達は段差のあるハンドルバーの付いたバイクと三角断面タイヤで、僅かにハングオフして内足を斜め前に出すという、ロードレースとダートラを足したようなフォームでスライドに対応しつつ、外足で車体をがっちりホールドし、シート上面イン側に【荷重】をかけて旋回力を高めています。
ついでに、オートレース用のバイクにはタンクサイドアウト側に外足のヒザを引っ掛けるためのバーが付いてますが、付いている位置を考えればこれはあくまで車体をホールドするためであり、外足に【荷重】をかけるためでないことは明白です。前述したように【外足ホールド】と【外足荷重】は別物で、これを分けて考えないと答えへの道を誤ることになります。

“Moto-GP”にせよ“Dirt Track”にせよ、彼等は伊達や酔狂でスライドさせるためにスライドさせているのでも、スライドさせるから速いのでも無く、他の誰よりも先にレースを終えるために、その時の自分とバイクにそれが必要だからスライドさせ、必要だから【外足荷重】しているだけであって、これら動作の流れの中の一部を切り取って、一般的な我々のコーナリングまで『外足荷重は外足ホールドのこと!だから常に外足荷重!それが基本!』と曲解して要約してしまうのは、やや飛躍が大きいかと思います。

■第四夜(その2)■に書いた通り、一般のライダーが経験する「ツーリングペースよりちょっと速いくらいの速度域」であれば、一瞬タイヤが滑ってもバイク自体が瞬く間にバランスをとってしまいますから、まずは路面状況に最大限の注意を払うことが【基本】であり【大前提】です。
もしヌタヌタの泥水が道一面に広がっていたり、一面凍結した橋の上や、延々と落ち葉が降り積もった路肩、転倒車が片側車線いっぱいに撒き散らしたオイル、ダンプが一面派手に降り落とした砂などに乗って(これらに不用意に乗ったら、文字通り「為す術」がありません)転倒したら、それは全て路面のイレギュラーをいち早く見つけられなかった自分の注意力不足のせいで、「運転操作のテクニック不足」のせいではありません
それは【外足荷重】云々とは切り離して考えたほうが良いでしょうね。

その辺の【意識】なんてのもいずれ書く予定ではいます・・・・・が、まだ全然まとまってないですw
先に、■第五夜・上■をどうぞ

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